猫のうしろすがた

ゴマとシオの里親を探すことにした。

人生初の里親探し。五里霧中かつ暗中模索になるので、取説みたいなものが欲しいんだけど、「丸わかり 猫の里親探し 新装版」みたいな本が近所の書店になかったので、ナイツみたいにヤホーで調べて、自己流の攻略本を作ることにした。

検索してみると、里親を探すにあたり必要な心構え、やらなければならないこと、気を付けるべきことなどなど、盛りだくさんの情報が手に入った。

里親探しのファーストステップ、健康診断。子猫を家族として迎えたいと真剣に考える里親が、その健康状態について知りたいのは当然だと思う。

ゴマとシオは、保護翌日に基本的な部分はひと通り行っていた。済ませていなかったのは、FIV(猫エイズ)とFeLV(猫白血病)の検査なんだけど、実施時期や月齢によっては正確な診断がくだせないそうで、推定月齢一ヶ月ほどのゴマとシオは、検査の適期ではない。

里親を募る前に済ませておきたかったけど、募集要項には明記することにした。

里親探しについて調べるうち、驚きの事実にも行き着いた。悪意を持って里親に立候補する、打首獄門レベルの輩が存在する、ということである。

そんな輩に子猫を譲渡してしまうと、虐待、繁殖利用、転売、実験動物への流用など、ありとあらゆる悪事を働くそうで、それらの行為は“里親詐欺”と呼ばれている。

ゴマとシオにそんな事をする奴がいたら、頭スコーンと割って脳みそチューチュー吸うた上に、末代まで呪おうと思うが、そうならないように努めるのが私の責務なので、「引き渡しの際は里親の自宅に伺う」「契約書への署名」「身分証明書の提示」「譲渡後の定期的な写真報告」などの予防線を、募集要項に盛り込むことにした。

里親募集のイロハについて学び終えたので、いよいよお店のブログとSNSで里親を募ろうということになった。

片田舎のお店が呼びかけたところで、その拡散の仕方は猫の額だろうとも思ったけれど、ネズミ算式に拡まることを祈りつつ、なるべく可愛い写真を選んでアップした。

どんな風に撮っても可愛く写ってしまうので、どの写真にするか、決めるのにけっこう苦労した。

どのくらいで第一報が来るのかな。そもそも連絡をいただけるのかしら。なしのつぶてだったら、二の矢三の矢を考えなきゃ。なんて思っていたら、スマホ曰く、ユーガッタメール。ここでいうユーは私のことで、つまり第一報が届いたわけである。

メールを開くと、「白靴下を履いてる子猫、お迎えしたいです!」と書いてあった。

初の里親募集から24時間で、初の里親立候補者からの初連絡。ほんとに連絡来ちゃったなあ、と思った。シオが少し離れたような気がして、急に寂しくなった。

性悪説で生きてきた私は、「連絡が早過ぎて、何か怪しいんですけど」と思った。もしかして里親詐欺か?とも思った。

質問攻めにしたら化けの皮が剥がれるかもしれないので、いろいろと聞いてみた。

変な輩だったら、シオを連れて行かなくて済むもんな、と考えていた。連れて行きたくないのに、何で里親募集してるんだろう、とも考えていた。

とてもとても良い方だった。数ヶ月前に自宅の猫が他界し、たまたまゴマとシオの里親募集の情報が出てきて、運命的なものを感じたと仰っていた。夫婦ともにお迎えする気満々だとも仰っていた。猫飼い歴も長く、私の大大大先輩だった。

一週間後。里親さんのご自宅が在る浜松へ出掛けることになった。

2016年7月13日の朝。出掛ける準備を整え、キャリーケースにシオを入れる。「大丈夫だからね」と声を掛ける。不思議そうな顔をして、ゴマがシオに近寄っていく。「ゴメンね、お別れだよ」と伝えることしか出来ない。ゴマもシオも、かぼそい声で鳴いている。いろんな想いがあふれ、大粒の涙がこぼれた。

おっとりとしていて、やさしい猫だった。一緒に過ごしたのはたったの22日間だし、もう10年も前のことだけど、そのやわらかさとぬくもりは、今も私の手に、新鮮に残っている。

 

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糸デンワ

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