猫のうしろすがた

ニコは普段、「トンコトンコトンコトンコ」と安定したリズムで歩いている。

いつの事だったか、相方がニコの右後脚を誤って踏んづけてしまったことがあった。「ギャン!!」という聞いたことのない大声に驚きその音源の方に目をやると、「タントトンコ、タントトンコ」という不思議な歩行リズムを奏でるニコがいた。明らかに脚を引きずっている。

マズいなマズいな。一見すると骨が折れてるとかは無さそうだけど、とりあえず動物病院に電話してみる。「足ついて歩いてるんだよね?なら打撲だと思うから、様子見で大丈夫だよ。」と先生が言ってくれた。その優しい言葉に安堵しつつも、これって電話診察特別料とか後日請求されるのかな、なんて考えたりした。

先生が言った通り、日に日に脚の状態は良くなっているようで、昨日より今日、今日より明日と、着実に快復に向かっている様子だった。

そんな時のこと。私は外出し、相方とニコとサンが留守番という日があった。帰宅すると、ニコが踏んづけられ直後みたいな脚の引きずり具合で歩いているので、「まだ痛いのかな?」とニコに問うと、相方が「いやいやいやいや、さっきまで普通に歩いてたし。」と言った。

生活を共にしていく過程で、ニコは私、サンは相方という派閥が、自然と形成されていった。ニコの私への甘えん坊ぶりは凄まじくて、それが極まって仮病みたいな演技をしたのかもしれない。真意のほどは分からないけど、相方は「どんだけ構ってちゃんなんだよ。」と苦笑していた。

数分後、ニコは素知らぬ顔で「トンコトンコトンコトンコ」と歩いていた。

ニコの仮病疑惑はさておき、猫というのは不思議な動物で、見飽きるということがない。

例えば移動。A地点からB地点へ行くのに、最短距離を一直線に、ということがほとんどない。ある日は、何かを思い出したかのようにC地点を経由したのちにB地点に到達(A→C→B)し、また別の日には、なぜそんな狭いところを?と思うD地点を通ってからB地点にゴール(A→D→B)する。

猫には猫なりの理由があるんだろうけど、それは猫にしか分からない。その遠回りのなかにこそ、猫なりの風景や気分があるのだと思う。カーナビに頼らず、遠回りをしないと得られない思い出もある。

戯れ合いなのか喧嘩なのか分からない、激しすぎる追いかけっこに興じていたかと思ったら、気付けば背中をくっつけ身を寄せ合い、丸くなって眠っていたりする。切り替えの速さも関係の柔軟性も、なかなかマネできないものだと思う。

画面越しに言葉を交わすことが増えて、イイねを押しているだけでその人のことを知っているような気がしてしまう人間社会。

一方、猫と人間、猫と猫の間には、生身のコミュニケーションしか存在しない。呼吸、気配、表情、温度、匂い。言葉はなくても、よっぽど通じ合っているのではないかと思う。

2016年6月22日。気づいたら小さな子猫二匹を家に連れ帰っていた。服は汚れ、疲労困憊。それでも空腹はやってきて、私はそのままの姿でウェルシアへ即席麺を買いに出た。そういう日に限って、知人に会ったりする。

生活というのは、こういう間の悪さを含んでいるものだなあと思いながら、ただ曖昧に笑っていたあの日の記憶が、その知人に会うたびよみがえる。

 

子猫二匹との出会いとその日のドタバタ劇は、また次の機会に記します。

 

糸デンワ

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